なんというか、ギター20年以上弾いてきてしまった自分にとっては違和感を感じる結びな記事だった。
まあ、仰る通り、門外漢がぼんやり単純にフェンダーのギターをそのままコピーしただけのギターに「本物」、「本物感」を求めたら、亜流にしか見えず敵わないという意見になるのは当然なことではある。
しかし、フェンダージャパンにしても他の日本のメーカーブランドにしても、それぞれの特色をきちんと読んでいけば亜流をすでに超えて独自の良さを全面に打ち出したオリジナルのギターを商品化し、大ヒットを飛ばしている。
フェンダージャパンについて
フェンダージャパンは記事の中にもあるが、ファンが多い。
かく言う俺も20年弾き倒した一本があった。これはストラトの音が欲しい時に、若い時のひどい録音状況でも本家のものよりアンサンブルの中できちんと居場所を保ってくれるからと言う理由で、本家のギターと買い替えを考えて何本試奏してもこのニュアンスを超えたなという実感がなかったからと言う理由で、ずっとギターラックの中に収まっていた。
しかも、それを手放した現在、その役目はポーランドのメーカーのギターがその役目を担っている。
この点で現在の「本物」にこの記事に書かれているほどの力があるのか、疑問に感じるのである。
現在のフェンダーUSAのギターはヴィンテージと呼ばれる年代のものよりキッチリカッチリした作りであると感じる。
不思議なことにこの作りのカッチリ感を突き詰めると日本のギターの方がカッチリしている。と言うかもうガッチリといったほうがいいほど隙間なく余裕なく作ってあるものが多い印象だ。
今後のことはわからないがフェンダージャパンを作っているダイナ楽器にしても、十年前くらいまで同じ仕事を請け負っていたフジゲンにしてもこの点は間違いなく、これが楽器の良し悪しであるという意味では全くないが「なんだか硬い楽器だな」と思う。
そういったところはもちろん「フェンダーか?」と聞かれればフェンダーではないが、日本のメーカーパワーで言えば全く遜色ない。
ついでに言えばフェンダーUSAは一度CBSに売却されており、レオ・フェンダー直系の技術が継承されているかも疑問がある。
噂話しでしかないが、1985年にCBSが楽器事業から撤退した時、再興されたフェンダーUSAの木工技術を支えたのは当時YAMAHAの下請けもしていたフジゲンの職人達の指導であったという話も聞いたことがある。
この話を聞いた後、個人的にはブランドで買いたいということと道具として買いたいということははっきり分けて考えなくてはいけないという、当たり前なことだった。
フェンダーUSAについて
フェンダーと並ぶギター界の巨塔といえばギブソンがある。
こちらの方はなんというか明確に音にギブソン色がある様に感じるが、フェンダーUSAはその特色が薄いと感じる。
なぜかといえば、フェンダーの戦略としてかなり根本的な部分まで踏み込んで仕様の違う楽器が販売されているからという点がある。
木材が違う、ハードウェアが違う、電気系の設計が違う、作っているところが沢山ある、形が同じなのに一本一本なんだか別の楽器みたいに感じる。
この全方位攻撃に見える試行錯誤はフェンダーの強みで、だからこそフェンダージャパンやフェンダーメキシコといった新たなブランドに発展し、俺にフェンダージャパンのストラトを抱きしめさせるに至ったのではないかなと思うが、それ故に欲しい音を出す楽器として考えた場合、「本物」ってどれだろうと悩むのである。
日本のギターブランドについて
日本のギターブランド力で考えた場合。
先ほどのフジゲン、様々なブランドの下請けもしているが独自のブランドを持っている。
キッチリカッチリの丁寧な仕事で、ギター弾く人なら知ってる有名大手であり、テレビを見ているとミュージシャンが抱えているところを散見する。
ディバイザー、個人的に心酔している楽器メーカーでアコギは2本持っていてメインで使っている。
ヘッドウェイやバッカス等の楽器屋さんでよく見かける優良有能なギターをはじめ、momose、seventysevenといった重要ブランドをたくさん持っている。
フジゲン以上にガッチリ感があり、その為低音に余裕がない感じがするが、このせいでアンサンブルの中で埋もれにくい気がする。
ESP、かつてはヴィジュアル系御用達といったイメージであり、アルフィー高見沢さんの凄いギター群を引き受けているところをであるが、海外有名ミュージシャン、メタルヒーロー達にエンドースメントして尚且つ奇抜なギターを提供し続けている。
新しい海外向けブランドも展開しており、最近バージョンあっしてE-Ⅱという名前になった。
これもエンドースミュージシャンが山ほどいる。
Ibanezというブランドを展開している星野楽器。
誰でも知ってるストラトキャスターを受け継ぎ、当時の流行へさらにフィットさせたRGシリーズ。
この当時はスーパーストラトと呼ばれだこの手のギターが氾濫していたが、その中でギターヒーローとエンドースメントする手法を使い、知名度を上げた上、そのプレイヤーからのフィードバックで現在までかなり濃い世界的ブランドイメージを育て続けている。
あまり物を知らない俺でもこれくらいのブランドはぱっと浮かぶ。
そしてこれらは、見かけ以上に独自性の高いブランドでその点で見れば、フェンダーUSAに引けを取らない。
エレクトリックギター黎明期からの強みを持ってしても試行錯誤をしないといけないほど屈強な猛者たちなのである。
これら以外にも引き合いに出すべきブランドやメーカーは沢山ある。
和製メーカー最高ということではないけどね
何が言いたいかというと、これらがフェンダーUSAより良いとか悪いとかではなく、記事にあるような「本物ではないなにか、亜流」ではもはやないということで、大衆にわかりやすくでもこんな馬鹿馬鹿しく書いて欲しくないという感情であると。
ニコンの歴史を知っているのに、これらのブランドの現在を十把一絡げに書くのはフェンダーにとっても産経にとっても、取り上げられたどの企業に関しても印象がよろしくないと言いたい。
別にブランドで買ったっていいし、俺が使っているギターも勿論海外の有名ブランドのものであるし、音や演奏性抜きであのフェンダーのデカールのついたUSAなギターが欲しい気持ちがあることも認めよう。
何をチョイスするかは、個人の嗜好似合わせた自由な選択だ。
が、この記者のいってる本物のギターってなんなのか、「フェンダー」というブランドしか見えておらず、フェンダーの特色の考察が薄く、しかもその歴史が途切れず綿々と続いてきたかのような様々端折った記事作りだ。
言葉を選ぶ過程で大事なところを削ぎ落としてしまっているのではないか。
現場にいれば、フェンダーの形をした「亜種」と呼ばれたタイプのギターを、大人の事情もあれどひたすら弾いている有名プレイヤーなどざらにいる。
もちろんそれらすべてが和製メーカーであるということではないが、楽器を使う人間の一人として、第三者がこの記事をそのまま信じるようなことはして欲しくないなと思う。
それほど選択肢は広いのだと言いたい。
以下は元記事がなくなる可能性があるので、参照引用のために置いておきます。
http://www.sankei.com/west/news/150405/wst1504050006-n1.html
クラプトン、ジミヘンになりきるなら…米フェンダー社の逆襲 コピーで育った日本、本物にはやはり勝てない!?
エリック・クラプトンや故ジミ・ヘンドリクスの使用で知られる世界的なエレクトリック・ギターメーカー、フェンダー・ミュージカル・インスツルメンツ(米アリゾナ州スコッツデール)が、日本に本格進出することを決めた。これまで日本企業へのブランド供与や代理店を通じて展開してきたが、日本法人を設立して販売する。日本の製造業は欧米ブランドのコピーをし、追い落としてきたが、楽器に関しては“本物”にかなわないようだ。
コピーとの戦い
「フェンダージャパンが終わる?」
音楽好きの間で噂が流れ出したのは3月21日。「フェンダー」ブランドを冠した日本製ギターを扱う神田商会(東京)が、ホームページで「3月31日をもちまして(中略)販売を終了させていただくことになりました」と告知した。
日本製のフェンダー・ギター「フェンダージャパン」の歴史は、フェンダー社が日本の資本と合弁会社を設立した1982年に始まる。きっかけは日本市場でのフェンダーのコピー商品の氾濫だ。訴訟沙汰にもなっていた。
業を煮やしたフェンダーが、それならばと日本でギターを製造・販売することにしたとされる。本物の「フェンダー」ロゴを付けたギターを手頃な価格で売り出せば、コピー商品を手にする人は減るだろう、というわけだ。その後、ブランド供与を受けた神田商会が国内企業に製造を任せる形で「フェンダージャパン」は続いた。
神田商会が販売を終了すると表明した2日後の同月23日、米国製の輸入代理店、山野楽器(東京)も商品紹介サイトの閉鎖を公表。同日、フェンダーがホームページで日本法人設立に向けた求人を開始した。米フェンダーがいよいよ日本に本格進出することが明らかになった。
メキシコの台頭
フェンダージャパンの価格は数万~10万円台で、米国製の十数万~数十万円を大きく下回る。しかし、造りは丁寧で音も悪くない。日本はもとより、米国にもファンは多い。
一方でフェンダーは、中国製やメキシコ製も売り出した。特に近年のメキシコ製は、日本製と同価格帯で音も良いと評判だ。少し造りに粗いところがあるとも指摘されるが、かえってそれが「アメリカっぽい」との好意的な評価もある。フェンダージャパンと違って、フェンダーが工場運営に直接関与していることもファン心理をくすぐる。
また古くからの日本のファンは中高年になり、高い米国製でも買えるだけの財力を身につけた。フェンダーがコピー商品駆逐に腐心していたころと状況は大きく変化。日本市場開拓の先兵として孤軍奮闘してきたフェンダージャパンのビジネスは今回、フェンダーが直接、関与するところとなった。
いつかは本物を
日本の製造業はコピーでのし上がり、その後徐々に技術力とブランド力を培ってきた。
例えばカメラ。キヤノンなどは、独ライツ社の小型カメラ「ライカ」を徹底的にまねしてそっくりのカメラを安価に作った。「コピーライカ」の俗称で流通し、「ライカ1台、家1軒」と言われるほど高級品だった小型カメラを、高度経済成長期に身近なものにした。
その後、キヤノンは技術を磨き続けドイツ製に遜色ない製品を作り、世界市場で支配的な地位を築く。高級カメラの分野で、ニコンと並んで日本勢は敵なしの「本物」になった。
ただ、エレクトリック・ギターは、こうした道をたどらなかった。
ラジオや音響機器の修理業からスタートしたフェンダーは、エレクトリック・ギターの開発にあたり、伝統的な楽器製造の常識を打ち破ってネジとプラスチックを多用。工場で均質に量産できるギターを1949年に発表した。
製造しやすいだけにコピー商品が生まれ、低迷期もあったが、90年前後から人気ミュージシャンに機材を提供し、共同開発。さら職人の名前まで売り出してブランド力を高めた。コピー商品を持っている人にも「いつかは本物を」と思わせ続けている。日本製の高級ギターもあるが、多くはフェンダーの亜流の域を出ていない。
フェンダーの日本進出の背景にあるのは、ブランド戦略の巧みさなのか、それとも日本人の本物を見分ける眼なのか。あるいは日本メーカーに、米国文化を消化し乗り越えるだけの力がなかったとみるべきか。