私は昔、香港の街を歩いたことがあります。
その街は、とても強い原色の看板に漢字とアルファベット、目も暗む程明るい電球とネオンライトの束でできていて、店には一本に何十種類のゲームが入ったファミコンソフトや、広東語に翻訳されたマンガの海賊版が並び、上を見れば空を隠す様に建物から看板が突き出ていました。
そんな街の中に、今はもう無いあの九龍城がそびえ立っていました。
その計画性の「け」の字もない建設方法で創造された建物の群れは、城と言うよりは岩肌の露出した崖を見上げているような気さえするのでした。
中に踏み込むと、その危なっかしい構造からただ歩いてるだけで乗物酔いおこしそうになり、不穏な気配と暗い雰囲気から、何か恐ろしいものがひそんでいるのではないかと思える程でした。
しかし、確かにこの中で人々は生活していました。
彼等は、この不可思議な空気を独特の方法で取り去り、活力に変え、この城をまた増殖させてゆくのです。
かつて、私が香港で見たあの景色が、この東京で増えつつあります。
看板の山や、ネオンライトの洪水。おそらく、この様な景色はアジア人が持っている爆発的なエネルギーの象徴なのでしょう。
そしてこのエネルギーは、また新たに九龍城を誕生させつつあります。
私はいま、このエネルギーを音楽に変えて吐き出しています。